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ぴかぴか

Always believe in yourself.

世界に天使がいた頃の話

 未来に私はいなかった。


その力に気付いたとき、私は何回も何回も先の自分を見た。眉間に力を入れると奥のほうでキンッと鳴る。やさしいめまいがして、そのあと少しだけ大きくなった私が見える。はじめは一分後とかそんなの。日を追うにつれてもっともっと先が見れるようになった。


 四年後に私はいなかった。もっともっと見たかったのだけれど、そこには真っ白だけがつづいていた。

 でも、自分で見た私の終わりを、私はあっさりと受け入れることができた。そうしたら、この世界がほんの少し愛しく思えたから。


 いろんなものを見たくなったから、電車に乗るのをやめた。目的地まで、何時間でもかけて歩いた。なるべく多く言葉を使いたくて、メールアドレスを変えた。うんとむずかしくしてやった。風を感じてみようと、スカートを短くした。意味のないことが一つもない気がした。




「だーれだ!」

 瞬きも惜しい帰り道、ふいに暗くなった視界に心臓がキュッとなる。両目を誰かの手のひらでおおわれたんだってすぐに気づいた。
 おそるおそる振り向く私をニコニコ見つめる女の子が一人。


「だ、誰ですか。」

「答えになってないー。もう、そんなに怖がらないでいいのにー。」

 語尾をのばした話し方も、長くのびる髪の毛にも、覚えはなかった。あまりにも不審すぎる。


 (今日は天気が良いから、いろんなものを見たかったのに!)

 もったいなさに泣きそうになるのを抑えて走りだそうかと思ったとき、女の子の右手が私の頭にのり、グシャグシャと撫でる。




「四年後まで、いっしょに生きませんか。」


 聞きたいことは山ほどあったけれど、いいえとは言わせない彼女の雰囲気が私の口を閉ざした。きれいな目をしている子だった。そのうちにギュウと頭に重みが加わり、ゆっくりと沈む。


「はい、頷いた。決定ね?」



 彼女は、日に日に私の中に入ってきていた。いっしょに歌をうたうのが日課で、クセのつよい歌い方が好きだった。真似してうたったら、変なのって笑われた。彼女が白だと言えば、黒も白になったし、青空だと言えば、雨もあがった。つまるところ、何者なのかと聞けば、天使だと言って頭にヘンテコな輪っかを乗せた。どう見ても小学生の工作レベルのそれを自信満々に浮かせる彼女の背中に、羽根なんてなかった。ただ、ニッコリ、目を細めて笑うと、天使のそれに見えないこともないなあ、なんて思ったりもした。

 その頃には、私の力はなくなってしまっていた。



 そうやってふたりで四年間を過ごして、私も少しずつ心に準備をした。





 私は生きた。四年が過ぎても生きていた。


 天使のあの子はいなくなった。
 準備なんて言って、大したこともできず、絶望を見た。泣いたって遅かった。



 わたしに四年間をくれて、ありがとう。あなたらしく歌うのが好きだから、あなたに四年後をあげる。ずっとあげる。



 天使のあの子がいなくなった世界も愛しく思えた。いろんなものを見たし、たくさん言葉を使った。あの子以上の言葉はまだ見付けられていないけれど。



 未来に私はいなかった。そうやって、今を生きていってみようと思う。がんばる。